差別化

年間約500件の新規事業計画書をレビューしているエムアウトが事業計画書の書き方を伝授します。

『差別化』は、前の項の『競合分析』とワンセットで説明する機会が多いです。

「彼を知りて己を知れば、百戦して殆からず」という孫子の有名な言葉があります。

これは、戦争における古典的な教えですが、ビジネスにおいても同じことが言えます。なぜなら、競合(彼)の現在の戦略・強み・弱み・今後とろうとしている方向性/戦略を把握し、自社(己)が持っている経営資源を冷静に見極めることができてはじめて、競合に対抗しうる有効な戦略を立案できるようになるからです。


自社に強みがあり、その強みを活かした戦略を立てたとしてもすでに市場の大部分を取り込んでいる大手企業と同じ強みだったとしたら、全くの新規で参入しようとしているあなたの事業が市場に受け入れられる可能性は非常に低いものとなってしまうでしょう。

逆に、現時点では自社に明確な強みがなかったとしても、競合他社がマーケットに対してまだ提供できていない新しい付加価値を作り出すことができれば、あなたの事業の成功確率は前者と比べて格段に高いものとなります。

大きくとらえると、これが差別化という考え方です。


ただし、ビジネスの場合は「競合に勝つ」ことが目的なのではなく、あくまでも自社のビジネスが狙い通りにマーケットに歓迎され、その結果として収益をあげることが目的となります。
その意味では、自社、競合以外の、「マーケットのウォンツ・ニーズを正確にとらえる」という要素の重要性が非常に高いといえます。


一般的に、これら3つの要素を

・顧客(Customer)
・自社(Company)
・競合(Competitor)

それぞれのイニシャルをとって、3Cと呼びます。

事業計画書の最も基礎となる部分ですが、残念ながらどれかが抜けてしまっていたり、いずれかの分析が甘かったりするケースがとても多いので、ご自身のプランに関しても今一度ゆっくり見直してみることをお勧めします。


さて、差別化の方向性にはいくつかのパターンがあります。

特に新規事業という点に特化した場合、大きく分けて3つの差別化のパターンが存在します。

@ビジネスモデルの転換
Aターゲットセグメンテーションの転換
B狭義な意味での新たな付加価値の追加

あなたの事業が、特許など特別な強みを持たずに参入しようとしており、かつある程度の事業規模を目指すのでれば、この並び順も重要な意味を持ちます。
それは、大手企業から見たときに参入障壁となりうるかどうか、という観点ですので、それも踏まえてご理解いただきたいと思います。


■□ビジネスモデルの転換□■


T.【SCMからDCMへの変革】

SCM(サプライチェーン・マネジメント)とは、メーカーが製品を製造し、消費者の手元に届けるまでにかかわるモノと情報の流れを整理し、より効率的な流れ(チェーン)を築こうとする取り組みです。
そもそもの考え方として、メーカー側の経営効率化が原点となっていることが多く、必ずしも消費者にとって有益な流れ(チェーン)を築けるとは限りません。

それに対してDCM(デマンドチェーン・マネジメント)とは、ビジネスの流れ(チェーン)の出発点をメーカー側ではなく顧客側に置き、あらためて商品の供給体制を見直そうとするものです。
この考え方自体は、顧客が欲しい商品を欲しいときに欲しい数量だけ用意しようという単純明快なもので、消費者から見ると非常に理にかなった考え方であるといえます。
またメーカー側から見ても、売れるかどうか分からない無駄な在庫を持つ必要がないわけですから、そのメリットは計り知れません。

しかし多くの業界では、いまだメーカー主導で規格品を大量生産し、大掛かりなマス広告とセットで、
 メーカー → 卸業者 → 小売業者 → 消費者 へ
商品を届けるという従来のチェーン構造から抜け出せていません。

その理由は、業界や企業によって様々ですが、最も多く挙げられるのはコスト増の問題です。
チェーンの大掛かりな変革には様々な直接コスト・間接コストが必要となりますし、そもそも消費者が必要とする時に必要なだけ商品を届けようとした場合、特に何の工夫もしなければ、規模の経済を享受できず構造的な高コスト体質となってしまい、事業の存続そのものが危うくなります。

しかし、そこにこそ新規事業者が参入し、大きく成功できる余地と可能性があります。
消費者側に立ったしがらみのない自由な発想に、コスト増を抑える工夫や情報システムを組み合わせることで、大手企業には実現できないビジネスを作り出すことができるのです。


U.【バリューチェーンの変革】

バリューチェーンとは、製品が消費者に届くまでの付加価値を生み出す連続したプロセスのことを指します。
バリューチェーン上のそれぞれのプロセスにおいて付加される価値とコストの構造と関係を分析し、どのプロセスが重要なのか、あるいは重要ではないのかを明らかにしていくことを、バリューチェーン分析といいます。

つまりバリューチェーンを変革するということは、バリューチェーン分析の結果を踏まえて、自社はどのプロセスに注力すべきなのか、あるいは外部との提携や協力関係を構築するべきなのかなどについて、業界の既存の枠組みにとらわれず最適な設計を行うことと定義できます。

バリューチェーンの変革は、すでに様々な業界で行われており、その結果として大きな成功をおさめている企業も数多くあります。

その最も有名な例が、アパレル業界のSPA業態です。

SPAとは"Speciality store retailer of Private label Apparel"の略で、1986年に米衣料品大手ギャップの会長が自社の業態を指していった造語です。日本語では「製造小売業」と訳されます。

SPAは消費者ニーズに迅速に対応するために、ファッション商品の企画・製造・販売を垂直統合させたビジネスモデルで、
 
 ・企画 / 製造 / 販売を一気通貫でマネジメントすることで消費者ニーズに迅速に対応
 ・中間マージンをなくすことで利益率を高める

という考えに立った業態です。
ユニクロや、靴業界のABCマートなど、SPA業態への転換によって成功をおさめている日本企業も多く挙げることができます。


従来からのアパレル業界の特性としては、以下の4点を挙げることができます。

 ・多くの商品が季節商品であるため、四半期毎に販売戦略を見直さなければならない
 ・サプライチェーン上、以下のように多くの業者が関わっており、商品の企画段階から
  消費者の手元に届くまでに相応の時間がかかる
  素材メーカー → 糸商社 → 生地メーカー → 生地商社 → アパレルメーカー(企画・製造)
   → (製品卸) → 小売業
 ・メーカーは、商品企画の失敗によって予想通りに商品が売れなければ季節性の不良在庫を抱えてしまう
 ・商習慣として小売業からメーカー(または卸)への返品が慣例化しており、メーカーの
  在庫リスクはより大きくなってしまう

 これらからアパレル業界をさらに分析してみると、

 @.メーカーが大きなリスクをとっているが、その分を価格に転嫁させており、メーカーのビジネスモデルは
   ハイリスク・ハイリターンであるといえる
 A.そのリスクの多くは、以下に起因する
  ・顧客ニーズ吸い上げ不足による、企画力の不足
  ・企画〜消費者の手元に届くまでのリードタイムの長さ

 ということがいえます。

これらリスクの原因を取り除くことで、リスクを低減させることができることはもちろんのこと、バリューチェーン上のそのプロセスは高付加価値となります。
よって、自社の仕組みに取り込むことができれば、バリューチェーンそのものを変革することによって収益性の高いビジネスモデルを築くことが可能となるわけです。

これが、バリューチェーンの変革という観点からみるSPA業態の本質です。


V.【既存業界のしがらみをつく】

すでに大きなビジネスを行っていて、一般的に大企業・あるいは優良企業と見られている既存の事業者には様々なしがらみがあります。
その種類も深刻度もさまざまですが、そのしがらみが足かせとなって新たな戦略を打ち出すことができず、新規参入者に市場を奪われてしまうというケースは数多くあります。

例えば、既存大手が強力な営業網を自社で抱えていたとします。
この場合インターネットなどを活用した、効率的な新規営業手法の可能性があったとしても、多くの営業マンを自社で抱えているがゆえに、営業手法の乗り換えは非常に困難であるといえます。

また、過去フランチャイズモデルで一気にマーケットをおさえた既存事業者がいたとしましょう。
フランチャイズモデルというのは、フランチャイザー(本部)とフランチャイジー(加盟店)のパートナーシップによって契約が成り立っています。このため関係する事業者が多く、足並みをそろえることは容易ではないため、戦略の急な方向転換というのはなかなか難しいのが現実です。

あるいは、メーカーと卸の関係を見てみると、先のSPAの例ではないですが、垂直統合モデルへ転換したほうが明らかに効率がよいと思われる場合も、既存の取引関係を切り捨てることができず、完全な業態転換にまで踏み切れないケースもあります。
多くの場合、主流は相変わらずの既存流通、ちょっとだけ新規流通を取り入れてみるといった中途半端な戦略をとりがちで、場合によってはその判断スピードの遅さが命取りとなって、新規参入者に足元をすくわれてしまいます。

新規参入をしようとしているあなたが戦略を立案するにあたっては、参入を考えている業界の既存業者が抱えているしがらみの存在とそのポイントを把握し、うまく自社の戦略に組み入れることで既存の大手企業が参入しづらい状況を作り出すことが可能になります。


■□ターゲットセグメンテーションの転換□■
 
T.【新しい考え方(軸)の設定】

今さら述べるまでもないことですが、現在の日本ではライフスタイルの変化と同時に、個人の趣味嗜好が多様化しています。
また、インターネット、モバイルも完全に一般化しました。
これにより情報の伝達スピードが飛躍的に上がるとともに、情報発信者と読み手との境目がほとんどなくなってきています。

消費者側のこのような劇的な変化に対して、古くからある業界の中には、業界全体としてまだまだその変化のスピードに追いついていないケースがあります。
その根底にあるのが、顧客ターゲットの捉え方であり、ターゲットセグメンテーションを行う上での"軸"の設定です。
つまりターゲットセグメントの捉え方が旧態依然としている、もしくは現在の顧客の立場に立った考え方ができていないケースがあるということです。

そのすきをつくことで、新規参入者であっても状況次第で新たなマーケットを作り出すことが可能となります。


U.【ニッチ戦略とクロスセル】

ニッチ戦略とは、差別化戦略をより先鋭化させ、専門家やマニア向けなど、非常に限定されたセグメントに特化し、そのマーケットでのシェアや収益性の維持を目指す戦略のことです。
しかし、見えているマーケットがそもそもニッチ(すきま)というだけあって、たとえマーケットシェアを獲得して、マーケットリーダーになれたとしても、それ以上の事業の発展は見込めないため、一般的には2つの方向性しかありません。

 @.圧倒的なシェアや立場をつくり、マーケット内でのオンリーワンを維持
 A.新市場の開拓者として先行者利益を取り、その後は事業譲渡など

しかし、ビジネスモデル次第では実は3つめの新しい選択肢を選ぶことができる可能性があります。それがニッチにおけるクロスセルの考え方です。

通常は、自社のサービス・製品があり、それらを提供するマーケットを随時広げていくという考え方に立つ前提があるため、先の2つの方向性しかないわけですが、
全く逆の考え方、つまり
  ・自社のサービス・製品を提供する
     ↓
  ・そのセグメントのウォンツ・ニーズを把握する
     ↓
  ・提供するサービス・製品を拡充する
     ↓
  ・そのセグメントのウォンツ・ニーズをさらに把握する
     ↓
  ・提供するサービス・製品をさらに拡充する

このような考え方を実践することで、新しい発展の仕方が可能になるわけです。
これにより、その特定のセグメントの顧客から見ると、あなたの会社は「一番私のことを分かってくれている会社」となるため、競合と比べて継続的に優位な立場を築くことが可能となります。

しかしここで気をつけなければならないのは、全ての提供物を自社内でまかない、収益を独り占めしてしまうのではなく、顧客が望めば競合他社とも組むなど、柔軟な発想を持つ必要があるということです。
そうしないと、理想ばかりが先行して高コスト体質になってしまったり、思うように事業展開のスピードを出すことができなかったりしてしまいます。


■□狭義な意味での新たな付加価値の追加□■

この考え方は、新規事業の戦略を策定する上で最も一般的なものかもしれません。

具体的には

  ・既存製品 / サービスへの機能追加
  ・既存製品 / サービスの流通チャネル追加による利便性向上
  ・販売だけではなくサポート体制の強化による安心感の醸成

などが考えられます。

つまりビジネスモデルそのものを変えてしまうのではなく、既存ビジネスをベースとして、アレンジを加えるというレベルのものです。
場合によっては、有効な戦略となりうることもありますし、すでに事業基盤ができている中堅・大手企業にとっては少ないリスクで収益を増加させる可能性があるわけですから最も賢い選択といえるかもしれません。

しかし一方で、あなたが全くの新規参入者であり、強固な基盤を持っていない場合、この戦略によって大きな成功をおさめることは難しいのが現実です。


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阿野武士


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